時間足の使い分けがトレード成績を左右する理由
自動売買(EA)において、ロジックの土台となる「時間足」の選択は極めて重要です。なぜなら、同じインジケーターや売買ルールでも、使用する時間足が違うだけでトレードの性質や成績は大きく変わるからです。
たとえば、1分足を使うEAはエントリー頻度が多く、素早い判断と処理が求められます。一方、1時間足以上のEAでは、トレード回数は減るものの、ダマシが少なくなり、より安定したパフォーマンスを目指すことができます。
一般的に使われる時間足の特徴は次のとおりです。
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1分足・5分足:スキャルピング向き。反応が早く、高頻度トレードに最適だが、ノイズも多い。
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15分足・30分足:バランス型。トレード頻度と精度のバランスがとれた構成が可能。
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1時間足・4時間足:スイングトレード向き。ノイズが減り、戦略性重視のEAに適している。
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日足以上:長期視点のポジショントレード。経済指標やファンダメンタルズとの整合性がとりやすい。
つまり、時間足をどれにするかは、「戦略スタイル」「トレード頻度」「目標収益率」などに応じて慎重に選定する必要があります。
フィルター条件がEAに「知性」をもたらす
時間足の選定だけでなく、“フィルター”の有無と精度はEAにとって大きな分岐点となります。
ここでいうフィルターとは、「本来のエントリー条件とは別に、エントリーの質を高めるための追加条件」のことを指します。例として以下のようなものがあります。
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トレンドフィルター:上位時間足でトレンドが出ているときだけエントリー(MAやADXなどを使用)
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ボラティリティフィルター:ATRや標準偏差で動きの強さを測定し、相場が動いている時のみ稼働
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時間帯フィルター:ロンドン・NY時間だけトレードし、東京時間は休止するなどの時間帯制御
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スプレッドフィルター:スプレッドが広がったときはエントリーしない
こうしたフィルターを導入することで、EAは「常にエントリーし続ける単純作業マシン」から、「判断軸を持ち、状況に応じて賢くトレードするツール」へと進化します。
フィルターの組み合わせと多時間軸ロジックの可能性
特に注目すべきは、**異なる時間足を使ってフィルターをかける“多時間軸ロジック”**です。
たとえば、5分足でエントリーするが、1時間足が上昇トレンドであることを条件にする。このように、短期の売買判断と中期の市場状況を併用することで、単一時間軸では実現できない安定性と再現性を実現できます。
このアプローチの利点は以下のとおりです。
以降ではこの多時間軸フィルターを含む**「具体的な組み方のパターン」「コードへの実装方法」「実例に見るEA改善法」**を解説し、より実践的な内容に踏み込んでいきます。
多時間軸フィルターの実装方法とMQLでの考え方
前編で解説したように、時間足とフィルターの組み合わせはEAに「柔軟な判断力」を与えるうえで極めて重要です。ここでは、その具体的なMQL4での実装例と、ロジック構築の考え方を紹介します。
たとえば、「5分足でエントリーするが、1時間足が上昇トレンドであることを条件とする」場合、以下のようなコードになります。
このように、上位時間足の値をリアルタイムで取得し、現在の足と比較することで条件付きのエントリーを実現できます。注意点としては、上位足の更新タイミング(例:H1は1時間ごとにしか更新されない)に気をつけ、iBarShift
を使って直近の確定バーを明示的に指定するのが望ましいです。
実践例:時間足とフィルターを使ったEA改善のステップ
ここでは、実際にEAを改善するステップを「トレード履歴→分析→フィルター導入」という流れで紹介します。
ステップ1:過剰なエントリーと負けトレードを分析
例えば、5分足で作ったEAが「ニュース発表直後」「東京時間のレンジ相場」などで損失を出している場合、それが特定の条件に集中しているとわかれば、それを除外するフィルターが効果的です。
ステップ2:該当する場面に絞ってフィルターを追加
ステップ3:フォワードテストでフィルターの効果を評価
バックテストでは結果が良くても、フォワードテストで安定しているかを必ず確認します。フィルターが入りすぎると、今度はエントリーしなくなり、機会損失が増えることもあるため、効果とトレードオフのバランスを見極める必要があります。
まとめ
時間足とフィルターの組み合わせは、EA開発において「環境適応力」を高める重要な要素です。時間足によって戦略が大きく変わるだけでなく、上位足や特定の条件でエントリーを絞ることで、過剰なトレードやノイズを回避し、より安定した運用を目指すことが可能になります。
特に、多時間軸でのフィルターは、裁量トレーダーが無意識に使っている感覚をEAに取り込む手段として有効です。今後の開発においては、単一のインジケーターやロジックに頼らず、**複数条件と時間軸を絡めた「総合判断型EA」**を目指すとよいでしょう。
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