“MT4とMT5、どちらでEAを作るべきか?”開発視点と運用コストで比較

EA開発者が直面する「MT4 vs MT5」問題

MetaTraderには2つの主流プラットフォームがあります。それが「MT4(MetaTrader4)」と「MT5(MetaTrader5)」です。両者の違いは見た目以上に深く、特にEA(エキスパートアドバイザー、自動売買プログラム)を開発・運用するうえでは、プラットフォームの選択がその後の戦略やコストに大きな影響を与えます。

本記事では、「どちらで作るべきか?」という開発者目線の疑問に対し、システム構造、言語仕様、運用環境の違いなどを前後編で詳しく比較・解説します。

前編では、両プラットフォームの技術的背景やEA開発に直結するポイントを中心に、後編ではバックテスト環境、コスト面、運用性などの観点から掘り下げていきます。

開発言語の違い:MQL4とMQL5の進化

MetaTraderの自動売買は、「MQL(MetaQuotes Language)」という独自言語で書かれています。MT4ではMQL4、MT5ではMQL5という異なるバージョンが採用されており、互換性はありません。

MQL4の特徴

  • C言語に近く、構文が比較的シンプル

  • 仕様が安定しており、古くから多くのEA資産が流通

  • 構造体やクラスの扱いが限定的で、オブジェクト指向が弱い

MQL5の特徴

  • C++に近い構造で、クラスベースのオブジェクト指向に対応

  • テスター機能が強化され、複雑なロジックにも柔軟に対応可能

  • 開発負荷はやや高めだが、将来的な拡張性は大きい

EA開発に慣れた人ほど「MQL4の簡素さ」を好む傾向がありますが、高度なポジション管理や柔軟なロジック実装が求められる局面ではMQL5が有利になることもあります。

プラットフォームの構造と制限

MT4とMT5では、アーキテクチャそのものにも大きな違いがあります。

MT4の構造

  • 単一スレッドで動作するため、テストや実行の並列処理に制限あり

  • ポジションは「1注文1ポジション」型で管理(同一通貨ペアで複数ポジションを持つ設計)

  • ブローカーによってはSTP/NDD環境での使用に制限がある

MT5の構造

  • マルチスレッド対応で、バックテストや最適化が高速

  • 「1通貨ペア1ポジション」型で管理し、注文は修正・加算方式で扱う

  • CFDや株式などFX以外の資産クラスへの対応が充実

このように、MT5はより多様な運用を想定した構造になっており、マルチアセット運用や高度なデータ処理が必要な場合には有利です。


バックテスト性能と戦略設計への影響

EAの性能を事前に評価するうえで欠かせないのが「バックテスト」です。MT4とMT5ではバックテストの性能や精度に大きな違いがあり、戦略設計そのものに影響を及ぼします。

MT4のバックテストの特徴

  • 単一スレッドのためテスト速度が遅い

  • モデリング精度は3段階(オープン、コントロール、すべてのティック)

  • 過去ティックデータは外部から入手しないと精度が落ちやすい

  • 複数通貨・複数戦略の並列検証が不可能

MT5のバックテストの特徴

  • マルチスレッド&クラウド最適化で処理が高速

  • 標準で高精度なティックデータが使用可能(Every Tick Based On Real Ticks)

  • マルチカレンシー対応、複数戦略を同時に検証可能

  • 最適化パラメータの比較・分析が視覚的に整理されている

EAを戦略的に設計し、パフォーマンスを科学的に評価したい開発者にとって、MT5のテスター環境は非常に強力な武器になります。

実運用時のコスト構造とプラットフォーム選択

開発だけでなく、運用時のコストやサポート体制もプラットフォーム選びの重要な判断材料です。

ブローカーの対応状況

  • MT4は今なお広く使われており、多くのブローカーがサポート

  • MT5は主要ブローカーでの対応が進むが、MT4限定のEA資産が多いため移行の進みは遅め

  • 複数口座運用や資金分散を前提とするならMT4が便利なケースも

VPSとの親和性

  • MT4は軽量で、スペックの低いVPSでも安定稼働しやすい

  • MT5はリソース消費がやや大きいため、高性能な環境を前提とする場合がある

システム更新と将来性

  • MetaQuotesは公式にはMT4の機能更新を終了しており、新機能やサポートはMT5に集中

  • 長期的な開発視点では、MT5への移行は避けられない流れ

まとめ

EA開発において「MT4とMT5のどちらを選ぶべきか」という問いには、正解は一つではありません。開発者としての目的、使いたい戦略の複雑さ、バックテスト環境の重視度、さらにはブローカーや運用コストの観点まで含めて総合的に判断する必要があります。

もし、すでに安定稼働しているMT4資産があるのであれば、その継続運用を前提にするのも合理的な選択肢です。一方、今後の拡張性や高度な検証を重視するなら、MT5環境への対応は避けては通れないテーマです。

この2つの選択肢を理解し、自分の開発目的に最適な道を選ぶことが、EA開発者としての第一歩になります。


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