退職金をFXに入金して消えた…親を狙うSNS勧誘の実例と防止策

なぜ今、高齢者がSNS詐欺のターゲットになるのか?

近年、SNSを活用した金融詐欺が急増しており、特に高齢者を狙ったケースが目立ちます。その背景には、スマートフォンの普及により中高年層もSNSに慣れ始めたこと、そして投資に関する知識が不足している層が多いことが挙げられます。また、「退職金」や「老後資金」といったまとまった資産を持っている人々は、詐欺グループにとって“理想的なカモ”なのです。

被害者の多くは、「信頼できる人」からのメッセージだと信じて投資を始めます。たとえば、FacebookやLINEで再会した旧友や、趣味のグループで出会った「親切な人」などが、実は詐欺グループの一員だったというケースも少なくありません。彼らは時間をかけて信頼関係を築き、「少額でいいから試してみて」と勧め、徐々に金額を吊り上げていきます。

実例:父がFXで退職金を失った日

本記事で紹介するのは、70代男性のSさんが経験したSNS詐欺の実例です。Sさんは定年退職後、再雇用も終えて自由な時間を楽しんでいた中で、Facebookで出会った「投資アドバイザー」を名乗る人物に興味を持ちました。その人物は、日々のマーケット情報を投稿しつつ、「資産を倍増させた方法」などを共有しており、信頼感を抱かせる演出が巧みでした。

最初は仮想の海外FX口座に数万円を入金し、毎日「◯%の利益が出た」とスクリーンショットが送られてきます。半年後、Sさんは退職金から200万円を入金。ところが、出金しようとした途端に「税金前納が必要」「本人確認が未完了」など、次々と理由をつけられて資金が戻らなくなりました。

被害に気づいた時には連絡先もブロックされ、FX口座もアクセス不能。警察に相談しても「自己判断による送金である以上、対応は難しい」と言われ、Sさんは深い後悔に苦しむことになります。

親世代が狙われやすい理由と詐欺師の手口

高齢者がターゲットにされやすい理由としては、以下の点が挙げられます:

  • SNS上での警戒心が薄い

  • ITリテラシーが十分ではない

  • 「老後資金を少しでも増やしたい」という心理

  • 信頼関係を築くコミュニケーションへの耐性が弱い

詐欺師は、次のような手口で親世代に近づきます:

  • 「無料でアドバイスします」と声をかけてくる

  • LINEで丁寧にやりとりを続け、信頼関係を築く

  • 少額の入金で「利益が出た」ことを見せる

  • 「出金するにはあと〇円必要」として、追加の入金を要求

  • 最終的には全額を持ち逃げ

これらは単なる金銭詐欺ではなく、長期にわたって信頼を裏切る“心理戦”でもあるのです。


なぜ親が「信じたくなる」のか?家族が知らない心理の罠

高齢者がSNS勧誘の話に心を開いてしまう理由は、「孤独」「不安」「信じたい」という深層心理にあります。退職後は人間関係が限定されやすく、日々の刺激や会話が減る中で、SNSのやりとりが“癒やし”になることもあります。加えて「資産を有効に使いたい」「子供に迷惑をかけたくない」という気持ちもあり、“儲け話”に心が傾きやすくなるのです。

詐欺師はこうした心理的背景を熟知しており、メッセージのやりとりを重ねる中で「今だけのチャンス」や「家族には内緒で大丈夫」といった言葉で孤立させ、金銭を引き出します。特に「家族に話すと止められる」と感じさせる言葉は、詐欺の温床となる一因です。

家族ができる予防策とチェックポイント

こうした被害を未然に防ぐには、家族の関与が不可欠です。以下のような点に気を配りましょう:

  • 普段から投資や詐欺の話題をオープンにしておく

  • 親のスマホやSNSの使い方を確認し、怪しい人物との接触をチェック

  • 「誰かにFXを勧められていないか」「突然儲け話が来ていないか」と定期的に聞く

  • 投資や金融に関して「家族で相談して決める」という共通意識を持つ

  • 詐欺被害にあったときの相談窓口(消費者センターや警察)を共有しておく

また、親の口座から大きな出金があった際は、理由を確認する習慣をつけることも大切です。

まとめ

SNSでのFX勧誘被害は、単なる詐欺事件にとどまらず、「家族間のコミュニケーションの断絶」という別の問題を浮き彫りにします。今回紹介したSさんのように、善意で老後を充実させようとした行動が、信頼の裏切りによって打ち砕かれるケースは後を絶ちません。

最も有効な対策は、“疑うよりも先に、聞ける関係”を築いておくことです。親が「ちょっと聞いてもいいかな」と思える関係性こそが、被害を防ぐ最大の予防線になります。金融の知識よりも大切なのは、家族の信頼と対話。高齢者のSNS活用が当たり前となった今だからこそ、家族ぐるみでリスクと向き合っていきましょう。


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