MQL4で作る“かんたんロジックEA”の設計思考と落とし穴

EAロジックを「かんたん」にする意味とは?

「かんたんロジックでEAを作る」と聞くと、勝てる確率が低そう、初心者向けの練習用でしかない、という印象を持つ方もいるかもしれません。しかし実際には、シンプルな戦略こそが「検証しやすく、改善しやすい」という強みを持っています。

MQL4を使ったEA開発において、最初から複雑なテクニカル指標や多重条件を詰め込むのは、バグの温床になったり、パフォーマンス評価が困難になる原因になります。たとえば、「移動平均線のクロス」「RSIが30以下」など、誰もが知る定番ロジックであっても、条件の組み合わせによっては膨大な検証が必要になります。

そのため、まずは「1つの指標、1つの売買条件だけで作る」というアプローチが有効です。この“かんたん”なロジックを起点にして、実際の相場と照らしながらチューニングしていくことで、再現性が高く安定したEAが生まれやすくなるのです。

シンプルロジックEAの実例:「MAクロス戦略」の基本構造

最も代表的なシンプルEAとして挙げられるのが、「移動平均線クロス(MAクロス)」による売買戦略です。たとえば以下のようなルールが考えられます。

  • 5期間移動平均線(MA5)が、25期間移動平均線(MA25)を上抜けたら買い(ゴールデンクロス)

  • MA5がMA25を下抜けたら売り(デッドクロス)

  • 損切りは20pips、利確は40pipsとする

  • ポジションは同時に1つだけ(新しいサインが出たらポジションをクローズ)

このような単純なロジックであっても、通貨ペアや時間足を変えるだけでパフォーマンスが大きく変わるため、十分にテストしがいがあります。

コードの設計イメージ

mql4
if (iMA(NULL, 0, 5, 0, MODE_SMA, PRICE_CLOSE, 1) < iMA(NULL, 0, 25, 0, MODE_SMA, PRICE_CLOSE, 1) && iMA(NULL, 0, 5, 0, MODE_SMA, PRICE_CLOSE, 0) > iMA(NULL, 0, 25, 0, MODE_SMA, PRICE_CLOSE, 0)) { // ゴールデンクロス:買いエントリー }

このように、MQL4では過去バー(1本前)と現在バー(最新)でMAの位置を比較することで、クロス判定を実装します。最初はこのようなベースからスタートし、少しずつルールやロット管理、フィルター条件などを加えていくのが開発の王道です。

前編のまとめと後編の役割

ここまでの前編では、「かんたんロジック」の重要性と、その典型例であるMAクロスEAの構造を紹介しました。後編では、この“かんたんロジック”に潜む思わぬ落とし穴や、検証でつまずきやすいポイント、そしてロジック拡張時の注意点など、開発初心者がつまずきやすい論点を掘り下げていきます。


シンプルロジックが陥りやすい“ダマシ”とその対策

前編で紹介したような「MAクロス戦略」などのシンプルEAロジックには、初心者にも理解しやすいというメリットがある一方で、現実の相場で使うには注意が必要な点もあります。その最たるものが“ダマシ”です。

たとえば、レンジ相場ではMAのクロスが頻繁に起こるため、サイン通りに売買を行っても損切りばかりが続く状況になります。このようなときには、「トレンドフィルター」を加えることで対応可能です。具体的には、ADXなどのトレンド指標で相場の勢いを確認し、ある一定以上の強さがあるときだけクロスを有効とする仕組みを加えると、無駄なエントリーを減らせます。

また、クロス後にすぐにエントリーするのではなく、「クロス後に価格が一定方向へ○pips進んだらエントリー」など、フィルター兼トリガーとして動く条件を追加するのも有効です。

“1条件1行”の設計が見通しを保つ

ロジックが増えていくとコードも複雑になりますが、MQL4の記述においては「1条件=1行」ルールを意識することで見通しがよくなります。ロジックの条件式を読みやすく整理することが、開発後のバグ修正や検証にも大きな効果を持ちます。

初心者がつまずきやすい“バックテストと過剰最適化”

EA開発ではバックテストが欠かせませんが、初心者が陥りやすい罠が「過剰最適化(オーバーフィッティング)」です。たとえば、ある特定期間のチャートでパラメータを調整しすぎると、過去にはうまく機能していたとしても、将来の相場では通用しなくなります。

この問題を避けるには、以下のような工夫が有効です。

  • 複数の期間(過去5年や10年)でテストを行う

  • 複数の通貨ペア・時間足でロジックの再現性を検証する

  • フォワードテストを必ず実施する(未来のチャートで動かす)

  • 「テスト期間内で最も悪かった時期」に注目してロジックを評価する

このような視点を持つことで、「たまたま儲かっただけのEA」から脱却できます。

まとめ

本記事では、MQL4を用いた「かんたんロジックEA」の設計とその実装、そしてその背後にある考え方や、開発初心者が陥りやすい落とし穴までを詳しく解説しました。重要なのは、「かんたん」だからこそ検証しやすく、改善の余地があるという点です。

複雑なロジックを組む前に、まずは1つの条件で機能するEAを作ってみること。そして、バックテストやフォワードテストで得た結果をもとに、小さな改善を繰り返していくことが、EA開発の本質であり楽しさでもあります。


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