なぜ「目視チャート判断」をAIに再現させたいのか?
裁量トレーダーが最も頼りにする「目視チャート判断」は、ローソク足の形状やパターンの感覚的な認識に大きく依存しています。
たとえば「ダブルトップになりかけ」「ローソク足の実体が小さくなってきた」といった判断は、定量的には説明しにくいものの、多くの熟練者が直感的に判断している重要な要素です。
これをAIに再現させる意義は、次のようなニーズによって支えられています:
- 判断の再現性を高め、感情に左右されないトレード環境を構築したい
- 複数通貨ペアを同時監視し、見落としを防ぎたい
- チャート分析の初心者にとって、裁量の「感覚」を数値や言語で説明したい
こうした背景から、画像認識技術やChatGPTの視覚連携機能を用いて、目視によるチャート判断を再現・補助する取り組みが注目されています。
チャート画像認識の基本:画像から情報を抽出する3ステップ
目視判断をAIで再現するには、チャートを「画像データ」として取り扱い、そこからパターンや特徴を抽出する必要があります。一般的なワークフローは以下の3ステップです:
1. スクリーンショットまたはチャート画像の自動取得
MT4/MT5やTradingViewには、チャートを一定間隔で自動キャプチャする機能や外部ツールが存在します。これにより「ある時点のチャートの形」を静止画として保存可能になります。
2. 画像解析(パターン抽出・特徴量検出)
保存されたチャート画像に対して、OpenCVなどの画像解析ライブラリを用いて以下を行います:
- ローソク足の大きさや色の分布
- ライン(トレンドライン、サポレジ)の位置検出
- 特定パターン(ピンバー、包み足、三尊など)の出現確認
3. 解釈・評価(ChatGPTやLLMによる自然言語変換)
抽出された数値情報やパターンに対して、「これはトレンドの終わりか?」「買い圧が強くなっているか?」といった評価を、ChatGPTなどの言語モデルが自然言語でコメントします。
こうしたワークフローにより、「人間の目で見た印象」に近い出力を機械的に再現できるようになります。
ChatGPTとの連携:何ができて何が難しいか?
ChatGPT単体では画像処理はできませんが、「前処理済みの情報をもとに解釈する」ことに非常に長けています。たとえば:
- 「この画像の左下には長い下ヒゲの陽線があります」といった情報を渡すと、「下落からの反発の兆し」と解釈してコメントできます。
- 「直近の5本は実体が縮小しつつある」と与えると、「エネルギーの収束=ブレイク前兆」といった分析を出せます。
一方、以下の点には注意が必要です:
- 解釈の一貫性が保てない場合がある(プロンプト設計で調整が必要)
- 実際のプライスデータが入らないため、あくまで「形」からの推測になる
- リアルタイム処理には不向き(遅延がある)
次の【後編】では、こうしたワークフローを具体的に構築する手順と、ツールの組み合わせ例、注意点、さらにChatGPTをどう制御するかといった実践的な内容を扱います。
実践ワークフロー:チャート画像からAI評価までのステップ
ここでは実際に、チャート画像を使ってChatGPTと連携するワークフローを紹介します。
ステップ1:チャート画像を一定間隔で自動保存
MT4/MT5ではEAやスクリプトを使って、1時間ごとにチャートのスクリーンショットを保存できます。TradingViewではWebhook連携や拡張機能を活用して同様の操作が可能です。
ステップ2:画像を加工・特徴抽出(OpenCV利用)
取得した画像はPython+OpenCVで加工します。ここでは以下のような処理を行います:
- 背景・グリッド除去(視認性向上)
- ローソク足の検出と高さ・色の記録
- 直近n本分の形状要素を構造化データに変換
こうして得られた「画像からの抽象データ」が、次の処理の入力になります。
ステップ3:抽象データをプロンプトに変換し、ChatGPTへ送信
たとえば以下のようなプロンプトを自動生成します:
markdown直近5本のローソク足は以下の通りです。 1. 陽線・大きめ 2. 陰線・小さめ 3. 陰線・やや長い上ヒゲ 4. 陽線・下ヒゲあり 5. 陰線・実体が小さい これらをふまえて、現在のチャートの印象と注意点を簡潔に解説してください。
このような構造で送ることで、ChatGPTは「人間的な目視判断」に近い評価コメントを生成します。
ChatGPT出力の質を高めるためのコツ
AIに判断を任せる際、出力の一貫性や精度を高めるにはプロンプト設計が重要です。
プロンプト設計の注意点
- 評価観点を固定する(トレンドの方向性、反転の兆候、出来高の背景 など)
- 時系列情報を明示的に記述する(「直近」「過去5本」といった指定)
- 「今後どうなりそうか?」という質問は具体的すぎず、判断材料に基づく解釈に留める
また、ChatGPTの「曖昧な表現への強さ」を活かし、裁量判断を補助する「セカンドオピニオン」として運用する方法も有効です。
評価出力の例(実際のChatGPT応答)
「現在のローソク足群からは、一時的な調整の可能性があります。下ヒゲの増加と実体の縮小は、反発への警戒感を示していますが、トレンド転換を示す決定的なパターンは未出現です。」
このように、定量データでは表現しきれない「雰囲気」や「警戒感」も出力できる点が特徴です。
まとめ
裁量トレードにおける「目視判断」をAIで再現する試みは、まだ完全ではありませんが、実用的な補助としては十分に活用できます。
画像取得 → 特徴抽出 → 言語モデルで評価、という流れを確立することで、複数通貨ペアの監視やブレイク直前の判断補助などに大きなメリットがあります。
注意すべきは、「AI判断=正解」ではないこと。トレーダー自身の戦略やルールと照らし合わせながら、あくまで補助情報として活用することが前提です。
次回は、「取引ログをChatGPTで分析する」をテーマに、テキストデータによるトレード改善フローを紹介します。
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