AIが判断する“フラクタル性”|相場の自己相似構造と多重スケール分析

フラクタル構造とは?|相場に潜む「似た形」の繰り返し

相場分析において「チャートは繰り返す」といわれることがありますが、この現象を理論的に支える考え方が「フラクタル構造」です。フラクタルとは、ある形が自己相似的に異なるスケールで繰り返される構造のことを指し、自然界では雪の結晶や海岸線、木の枝分かれなどに見られます。

この概念は金融市場にも当てはまります。たとえば、1分足と1時間足を見比べると、全体の動きは異なるものの、波形のパターンや転換の形状が似ていることがあります。これが「相場のフラクタル性」と呼ばれる現象です。

このフラクタル性をうまく捉えることで、短期足に現れたパターンが長期足でも再現される可能性や、複数の時間軸で共通する反転パターンを探ることができ、エントリー・エグジット戦略の強化にもつながります。

本記事では、AIを使ってこのフラクタル性をどのように判別し、トレード戦略に応用できるかを解説します。前編では、まずフラクタル理論の基本と、相場における「スケールの違い」をデータでどう扱うかを中心に整理していきます。

マルチタイムフレーム分析とフラクタル性の関係

マルチタイムフレーム(MTF)分析とは、複数の時間軸を同時に観察して市場の方向性やタイミングを判断する手法です。たとえば、日足で方向感を確認し、5分足でエントリータイミングを見るというアプローチが代表的です。

このMTF分析が有効なのは、相場が「多重スケール」で構成されているからです。大きな流れの中にも小さな波が存在し、それぞれにトレンド・レンジ・転換があるため、フラクタル構造としても整合性があります。

時間軸ごとの特徴と相関

  • 短期足(1分〜15分):ノイズが多く、反応は早いが精度はブレやすい
  • 中期足(1時間〜4時間):トレード戦略の中核になりやすく、方向性の判断に有効
  • 長期足(日足以上):大局観を掴むうえで重要。トレンド転換を判断する指標になる

AIによる分析では、これらの時間軸を同時に扱うことで、フラクタル性の有無を定量的に判別したり、どのスケールで相関が強いかを測定することが可能です。

スケール変換と相場パターンの抽出技術

異なる時間軸でのチャート形状を比較するには、まずそれぞれの足データを共通の指標に変換する必要があります。AIを用いる際は、以下のような処理が重要です。

1. 正規化による形状の統一

各時間軸での価格変動はボラティリティやレンジ幅が異なるため、そのまま比較しても意味を持ちません。よって、価格データはmin-maxスケーリングやZスコアなどで正規化し、「形の違い」ではなく「パターンの類似性」を抽出できるようにします。

2. 波形抽出の自動化

ローソク足の連続データから高値・安値・反転点などを自動抽出するアルゴリズムを用いることで、異なる時間軸に共通する「山と谷」のパターンを比較しやすくなります。特に、スウィングハイ/ローの検出やトレンドラインの傾向抽出などが有効です。

これらの処理を通じて、AIは人間が直感的に「似ている」と感じる波形を数学的に把握し、異なる時間軸の類似性を評価する基盤を整えることができます。


次の後編では、このフラクタル類似性を活かしたAIアルゴリズムの設計手法や、実際のトレーディング戦略への応用について深掘りしていきます。

フラクタル類似性を評価するAIアルゴリズムの設計法

前編では、相場におけるフラクタル構造の理論背景と、それを扱うためのデータ整形技術について整理しました。ここでは、その上に構築されるAIモデルの設計について具体的に解説します。

AIにとって、時間軸の異なるチャートがどれほど「似ている」かを判断するためには、画像処理と類似度評価の技術が応用されます。主な技術は以下の通りです。

1. 画像的特徴量によるパターン比較

チャートデータを画像として扱い、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)を用いて特徴量を抽出します。異なる時間軸で抽出された特徴量を比較し、コサイン類似度やユークリッド距離などで数値的に評価することで、フラクタル性の有無を数値化できます。

2. 時系列クラスタリングと自己相関評価

DTW(Dynamic Time Warping)などを用いて波形の時間的なズレを吸収しながら類似度を評価する方法も有効です。また、自己相関係数や自己情報量を測定することで、パターンの再帰性を定量化する手法もあります。

3. フラクタル次元とエントロピー評価

相場の複雑性や変動の粗さを定量化するために「フラクタル次元」や「サンプルエントロピー」などを導入し、一定以上の自己相似性があるチャートだけを抽出・学習対象にする前処理も実践的です。

これらの技術を組み合わせることで、AIが「形として似ている」だけでなく、「相場として意味のある繰り返し」を見抜く力を持つようになります。

フラクタルパターンを活用したトレード戦略の実例

フラクタル性を活かすトレード戦略には、スケールの整合性を利用した「マルチスケール・コンファメーション型」があります。具体的には以下のような流れです。

1. 長期足で出現した反転パターンを短期足で再確認

日足でダブルボトムが形成されたタイミングで、1時間足にも同様のパターンが形成されていれば、「マルチスケールでの一致」としてエントリーの根拠が強まります。

2. フラクタル一致パターンに基づくシグナル生成

AIによるチャート類似検索エンジンを用いて、過去の成功パターンと現在のチャート形状を照合し、同様のパターンが過去にどう動いたかを参照して戦略を立てる「チャートリファレンス型AI戦略」も有効です。

3. ノイズ除去と“精度強化”のトリガー

短期足で何度も同じ反転パターンが出る場合、それが「ノイズ」か「意図ある再帰」かを判断するため、フラクタル性とボラティリティ評価を組み合わせるのも有効です。

このようなアプローチにより、相場の“似たような状況”を再発見し、AIに基づく合理的な判断を支援するフレームワークが完成します。

まとめ

相場のフラクタル構造をAIで捉えるためには、単なるチャートのパターン認識を超え、時間軸を横断した自己相似性を定量評価する視点が必要です。特に、マルチタイムフレームにおける波形の一致、CNNによる画像特徴量抽出、自己相関やフラクタル次元評価などを統合することで、トレード判断の新しい軸が構築できます。

「相場は繰り返す」という直感的な経験則を、AIが裏付ける時代が到来しています。複雑なデータを扱いながらも、見えにくい繰り返しのパターンを見抜くAIの力は、今後ますます洗練されていくでしょう。

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